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金沢地方裁判所 昭和33年(行)4号 判決 1962年11月30日

原告 供田紀美 外一名

被告 石川県知事

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告等訴訟代理人は、

一、被告が原告供田紀美(以下単に原告紀美と略称する)に対し昭和三三年八月一一日なした同年度県税遊興飲食税更正決定(県税第二八六号)、並びに同税に対する異議申立につき同年一〇月一四日なした異議申立棄却の決定はいずれもこれを取消す。

二、被告が原告供田章(以下単に原告章と略称する)に対し同年九月二二日なした別紙物件目録記載の不動産(以下単に本件不動産と略称する)に対する前項県税滞納処分に因る差押はこれを取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、原告等の請求原因

原告等訴訟代理人は請求原因として、

一、被告は、昭和三三年八月一一日原告紀美に対し、同年度県税遊興飲食税更正決定(県税第二八六号)をもつて、原告紀美の昭和三一年一二月分から昭和三三年五月分迄の課税標準額を金五、〇一〇、九一〇円であつたと認定し、且つこれに対する税額を金二七五、六六五円であると更正決定をなし、申告済額金二一、〇七〇円を差引き、不足額金二五四、五九五円の徴税令書を発行した。

二、被告は地方税法第一一条第三項により原告章を原告紀美が経営している旅館業、飲食店業(以下単に本件営業と略称する)の共同事業者と見做し、昭和三三年九月二二日原告章所有の本件不動産に対し、前項記載の更正決定に基く県税(県税遊興飲食税、県税第一種事業税)徴収のため県税滞納処分により差押をなした。

三、原告紀美は同年同月一六日被告に対し、前記更正決定の課税標準及び税額算定が過大であると共に原告章との共同事業の推定が不当であり、且つ原告紀美の営業は課税対象内の免税点以下であつて税算出の根拠が不当であるとして異議申立をなしたが、被告は右異議申立に対し、同年一〇月一四日証拠の挙示がないからとして棄却決定をなした。

四(1)  しかし本件営業は一人一泊の料金が八〇〇円以下、これに伴う一人一回の飲食料が三〇〇円以下であつて地方税法第一一四条の五の免税点以下の営業を営んでいるものであり、被告がこの事実をよく調査せず過当賦課したのは不法不当である。

(2)  原告章は和洋傘製造販売業を営み原告紀美とはその営業が全然別個であり、且つ世帯も別で日常の夫婦生活を事実上営んでいない関係にあるので、地方税法第一一条第三項の適用を受けないのに拘わらず被告は原告章に対し同法同条を適用して共同事業者と見做したのは違法不当である。

五、よつて、被告に対し、原告紀美は前記更正決定並びに異議申立棄却決定の取消を、原告章は前記滞納処分による差押の取消を各求める。

と述べた。

第三、被告の答弁

被告訴訟代理人は答弁として

一、原告の請求原因中、第一項ないし第三項を認め、第四項を争う。

二、本件更正決定における課税標準及び税額算定には誤りがなく、且つ免税点以下のものに課税してはいない。

(1)  原告等の共同事業による売上額は、昭和三一年一二月二六日から昭和三三年五月九日迄につき金五、〇一〇、九一〇円であり、一、五〇〇、〇〇〇円の基礎控除をなし、更に申告による金員二六三、三八〇円を控除して得た数値が金三、二四七、五三〇円となるので、これが更正決定の対象となつているものである。

しかし、右の数額には計算上若干の誤りがあり、右の更正決定に対する異議申立の審査の際検算してその誤りを正し売上金額を金四、八九一、六七〇円と認定した。本来、本件営業には後記のとおり免除点及び基礎控除に関する規定が一切適用されないのであるから、課税標準額は売上金額そのものと言うべきであるが、遊興飲食税は特別徴収義務者が利用者から徴収して納入すべきものであるところ、本件の場合においては、原告が誤つてこれを徴収しなかつた場合又は誤つて所定の額に満たない額しか徴収しなかつた場合も考えられるのであるから、本件のような事件が極く特異なものである点にかんがみ、徴収しなかつた分についてまでは納入義務を追及しないこととしても、必ずしも法の趣意に背くものではなく、かつ課税の均衡の点から言つても、むしろ実情に即したものと言うことができるものとの考の下に、計算技術上可能な基礎控除を行なつて、差引課税売上金三、六七六、六七〇円を算出し、これから原告の申告した売上金額二六七、三八八円を控除した差引更正対象課税売上金三、四〇九、二八二円をもつて課税標準額としたものである。

(2)  右課税標準額に対して適用した税率は本来地方税法第一一五条第一号により一五%の税率を適用すべきところ、原告等は過去において五%と一〇%の税率により申告していた実績があり又被告としてもこれに対し異議を止めず認容していた事実があるので、この実績を尊重して売上と税率を計算した結果七、五%の数値を得たので、七、五%の税率を適用することとした。したがつて右課税標準額三、四〇九、二八二円に七、五%を乗じて差引不足税額二五五、六九六円を算出したのであるが、当初の更正においては不足税額が金二五四、五九五円と決定されており、右の額を下廻つているため、結論において更正決定が正当であるとして、原告の異議申立を棄却し、当初の額によることとしたものである。

(3)  原告等は本件営業料金が同法第一一四条の五により免税点以下であると主張しているが、本件営業は所謂正常な旅館営業ではなく、売春を伴ういわゆる特殊飲食店であり、且つ同法第一一五条第一号に該当するものであるから同法第一一四条の五の適用はない。

三、原告両名は同法第一一条第三項により共同事業者である。すなわち原告両名は、戸籍上は夫婦であり且つ生計を共にしていること、営業に不可欠の宅地建物を原告章において提供していること、さらに右営業により原告両名の生計を維持している事実に基き経営名義人原告紀美と特殊な関係にある原告章を原告紀美との共同事業者と見做したものである。

と述べた。

第四、証拠関係<省略>

理由

「被告が、昭和三三年八月一一日原告紀美に対し、同年度県税遊興飲食税更正決定(県税第二八六号)をもつて、原告紀美の昭和三一年一二月分から昭和三三年五月分迄の課税標準額を金五、〇一〇、九一〇円であつたと認定し、且つこれに対する税額を金二七五、六六五円であると更正決定をなし、申告済額金二一、〇七〇円を差引き不足額金二五四、五九五円の徴税令書を発行したこと、被告が原告章を本件営業の共同事業者と見做し、昭和三三年九月二二日原告章所有の本件不動産に対し、前記更正決定に基く県税(県税遊興飲食税、県税第一種事業税)徴収のため県税滞納処分により差押をなしたこと、原告紀美は同年同月一六日被告に対し、前記更正決定の課税標準及び税額算定が過大であると共に原告章との共同事業の推定が不当であり、且つ原告紀美の営業は課税対象内の免税点以下であつて税算出の根拠が不当であるとして異議申立をなしたが、被告は右異議申立に対し同年一〇月一四日証拠の挙示がないからとして棄却決定をなしたこと」は当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第三号証の一、同乙第七号証の二ないし四、同乙第八ないし第一三号証、証人宮島清之助の証言により真正な成立を認め得る乙第三号証の二、三、証人宮島清之助、同矢鋪菊男の各証言を総合すると、「原告章と同紀美はかねて夫婦であるところ、昭和三一年一二月から昭和三三年五月迄原告章所有の本件建物を使用して、共同で旅館「百々女木荘」を経営したこと(本件営業)、すなわち本件営業の届出名義人は原告章の妻である原告紀美であつたが、原告章は帳簿をつけ風呂を沸かし且つ掃除をする等右旅館業務に従事するのみならず、従業婦の雇入及び解雇並びに本件営業の収入支出についても原告紀美と相談の上決定し、さらに本件営業による収益は原告等の共同の生活費用に充てて居たこと、本件営業の実態はいわゆる特殊飲食店であり、原告等は訴外橋本啓子外七名の女性を住込又は通いの従業婦として雇入れ、同女らに客をとらせて売淫させ、その売春料金を同女らと折半して取得し、利益を得て居たものであり、前記営業期間内の総売上げが金四、八九一、六七〇円であり、その殆ど全部が売春及びそれに伴う飲食によるものであつたこと、被告は当初右売上げを金五、〇一〇、九一〇円と認定し、基礎控除として金一、五〇〇、〇〇〇円を控除した上、八、四八%の税率を適用して不足税額を金二五四、五九五円としたが、右に対する異議に基く審査では売上げを金四、八九一、六七〇円と訂正して認定し、基礎控除として金一、二一五、〇〇〇円を控除した上、七、五%の税率を適用し、不足税額を金二五五、六九六円と認定したが、原告にとり利益な当初の更正決定の際の金二五四、五九五円をもつて不足税額としたものであること」を認め得る。右認定に反する甲第九ないし第一二号証、第一四ないし第二〇号証、証人金森カヲルの証言並びに原告両名の本人尋問の各結果はいずれも措信しがたく、他に該認定を覆えすに足りる確証がない。

原告紀美は「本件営業は、地方税法第一一四条の五により、免税点以下のものであり被告は過当賦課したものである。」と主張するので按ずるに地方税法第一一四条の五は「旅館における宿泊及びこれに伴う飲食に対する遊興飲食税」の免税点につき、又同条の三は右遊興飲食税の基礎控除につき規定して居るがこれらの立法趣旨は「一般大衆の通常の宿泊及びこれに伴う飲食に税法上便宜を与えようとするもの」であり、たとえ旅館を利用するものとは言え公序良俗に反する売春に対してまでかゝる特別の便宜を与えるものとは認められず、従つて右各条項は売春による売上げには適用がないと解すべきところ、前記認定の如く本件営業はいわゆる特殊飲食店であつて、その売上げは原告等の雇傭にかゝる売春婦による売春料及びそれに伴う飲食料であるから地方税法の規定する基礎控除や免税点の恩恵を本来受け得ぬものである。又適用税率については同法第一一五条第一号により一五%を適用すべきものであるから前記売上げである金四、八九一、六七〇円に一五%を乗じた金七三三、七五〇円が本来の税額であり、それから申告税額金二一、〇七〇円を控除した七一二、六八〇円が同原告の納入すべき差引不足税額と解すべきところ、被告は同原告の差引不足税額を右範囲内である金二五四、五九五円と認定したものであるから、被告のなした更正決定は原告主張の如き過当賦課の違法があるものと言うことができず、従つて本件異議申立についてなされた棄却決定も相当なものと言わなければならない。

更に、原告章は「原告章は原告紀美とは別居して居り事実上夫婦でなく本件営業の共同経営者ではない。」と主張するけれども、前記認定の如く原告章と同紀美は本件営業につき共同事業者であり、従つて原告紀美に対する県税滞納処分として原告章所有の本件不動産を差押えた被告の行為は何ら違法ではない。

してみれば原告等の各請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九三条第一項本文第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 松岡登 高沢嘉昭)

(別紙物件目録省略)

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